「広島、美しさと癒し」

 広島に来るのは初めてだった。せっかくなら、名所も巡りつつ、心から贅沢な時間を過ごしたい。選んだ宿は「宮島 離れの宿 IBUKI 別邸」。本館もあるが、特に理由があるわけでもなく、ただ「別邸」という響きの良さに惹かれて選んだ。瀬戸内の穏やかな海を望む、静寂に包まれた極上の隠れ家だ。

 まずは広島市内を散策することにした。世界遺産である原爆ドームを訪れ、歴史の重みを感じながら平和記念公園を歩く。川沿いを流れる静かな風が心を落ち着かせ、しばらくベンチに座りながら、広島の持つ独特の空気を味わった。

その後、宮島へ向かうためフェリーに乗る。船が進むにつれ、厳島神社の大鳥居がゆっくりと姿を現し、その荘厳な佇まいに思わず息をのんだ。到着後は、参道を歩きながら焼き牡蠣やもみじ饅頭を食べ歩く。観光客で賑わう通りを抜け、静かな山道へ入ると、一気に時間の流れが変わったように感じる。

 「四季の息吹を感じる和の雰囲気」

宮島の自然を存分に楽しんだ後、いよいよ宿へと向かう。IBUKI 別邸の門をくぐると、そこはまるで別世界。木の温もりを感じる和モダンな建築、心地よい和の香りが漂い、迎えてくれるスタッフの笑顔が温かい。

客室に案内されると、広々とした空間に思わず感嘆の声が漏れた。部屋の名前は「橙」。高級感のある茶色のレザーソファーと、個性的なリビングテーブルが畳と絶妙なミスマッチを生み、不思議な和室を演出している。大きな窓からは瀬戸内の穏やかな海が広がり、波の音が心地よく響く。畳の香りに包まれながら、しばしソファに腰を下ろし、この特別な時間を味わう。

部屋には専用の露天風呂が備えられており、すぐに湯を張る。源泉かけ流しの湯は、肌を優しく包み込み、じんわりと身体の奥まで温めてくれる。目の前には四季折々の草木が風に揺れ、静かに流れる時間が心を解きほぐしていく。温泉に浸かりながら、ゆったりと流れる雲を眺め、静寂の中で贅沢なひとときを味わう。この瞬間、まるで時間が止まったかのような心地よさに満たされた。

 「地元の旨い食材を生かした料理」

夕食は、この宿ならではの「身体の中から美しく」をテーマにした料理。広島牛のロースト、牡蠣の西京田楽焼き、瀬戸内の魚介をふんだんに使ったお造りなど、地産地消の素材を活かした料理が並ぶ。そのどれもが、目で楽しみ、香りに魅了され、口に運べば五感が喜ぶ逸品ばかりだ。

特に印象的だったのは、広島牛のロースト。ナイフを入れた瞬間に感じる肉の弾力、そして口に運んだ途端、舌の上でほどける奇跡のような柔らかさ。芳醇な赤ワインソースがその旨味をさらに引き立て、思わず言葉を失う。まるで、長い時間をかけて育まれた広島の恵みを噛みしめるような味わいだ。

そして牡蠣の西京田楽焼きは、濃厚な西京味噌のコクが牡蠣の持つ海の旨味と溶け合い、口の中でひとつの完成された味わいを作り出す。噛むたびに溢れ出るエキスが、瀬戸内の風景を思い起こさせるような、奥深い余韻を残す。

食事のひと皿ひと皿が、まるでこの土地の物語を語るように心に染み込んでいく。食べるごとに幸福感が押し寄せ、心まで満たされていくのを感じた。

食後は、近くにある「妹背の滝」へ足を運ぶことにした。滝の水が勢いよく流れ落ちる音が響き渡り、心が洗われるような感覚に包まれる。自然の圧倒的なエネルギーを前に、日常の喧噪が遠のいていくのを感じた。

その後、再び露天風呂へ。夜空に輝く星を眺めながら、温泉のぬくもりに身を委ねる。この上ない幸福感に包まれながら、静かに目を閉じた。

「夜明けのチェックアウト」

翌朝、目覚めると、窓の外には朝焼けに染まる瀬戸内海。朝食もまた、こだわりの詰まった逸品だった。炊き立ての温かい粒だったご飯に瀬戸内産の魚を使った刺身、広島名産のレモンを添えた爽やかな一品。どれも、身体が内側から整っていくのを感じさせる味わいだった。

チェックアウトの時間が近づくと、名残惜しさが募る。でも、広島にはまだまだ訪れたい場所がたくさんある。次はもっと深く、この地を巡ってみたい。IBUKI 別邸で過ごした特別な時間が、心に深く刻まれた。

広島の美しさ、そしてこの宿のもたらす癒しの力。日常の喧騒を離れ、静寂に身を委ねることで、心が解き放たれる感覚。広島の自然と文化が織りなす贅沢なひとときに、ただひたすら身を浸し、満たされていく。ここには、時を忘れ、自分自身と向き合える至高の空間があった。広島牛は絶品なので来る価値はある。強くそう断言しよう。