「自然に囲まれた隠れ家のようなホテル」

  忙しない日常から少し距離を置きたくなり、静かに自分と向き合う時間を求めていた。そんな時に見つけたのが、熱海の高台に佇むホテルグランバッハ熱海クレッシェンドだった。都会の喧騒を離れ、穏やかな時間を過ごせる場所として、このホテルを選んだ。

一人旅で熱海の高台に佇むホテルグランバッハ熱海クレッシェンドに宿泊した。ここは、静寂に包まれた隠れ家的なホテルで、熱海の喧騒から離れた場所にある。日常の忙しさを忘れ、ゆっくりと過ごすのにぴったりな場所だった。

ホテルへは送迎の車で向かった。山道を進むにつれ、眼下に広がる熱海の街並みと海が視界に入る。坂を上りきると、そこに広がるのはモダンで洗練されたエントランス。ガラス越しに見えるロビーの静かな空気感に、期待が高まる。スタッフに迎えられながら中に足を踏み入れると、柔らかな照明と木の温もりを感じる落ち着いた空間が広がっていた。窓の向こうには相模湾が広がり、まるで一枚の絵画のように美しい景色が広がっている。

チェックインを済ませ、部屋へ案内される。部屋に入ると、広々とした空間に心が解放される。バルコニーに出てみると、熱海の海と空が一体化したような絶景。高台にあるため、街の喧騒が遠く、波の音がかすかに聞こえる程度だった。部屋の調度品はシンプルながらも上質なものばかりで、ベッドの寝心地も最高。細部にまでこだわりを感じる空間だった。

「豊かな感性を培う美術館」

夕食前に、ホテル近くの名所であるMOA美術館を訪れた。MOA美術館へは、長いエスカレーターをいくつも乗り継いで向かう。トンネルを抜けた先には、自然光が降り注ぐ広大なホールが広がり、その先に見える相模湾の青さが息をのむほど美しい。まるで異世界に足を踏み入れたかのような感覚に包まれる。

館内には、国宝の「紅白梅図屏風」や「色絵藤花文茶壺」など、日本美術の至宝が展示されていた。屏風の繊細な筆致を目の当たりにし、時を超えて受け継がれる美の奥深さに感嘆する。さらに、野点が楽しめる茶室「一白庵」では、抹茶を一服いただいた。心を落ち着かせる静寂の中、茶の香りとわずかに甘みを感じる和菓子の組み合わせが、旅の疲れをそっと癒してくれるようだった。

美術館の敷地内には、美しい日本庭園もあり、手入れの行き届いた木々や池が心を和ませてくれる。庭の片隅には、光の反射が美しい水琴窟があり、耳を澄ますと静かに響く水音が心地よい余韻を残す。美に触れ、静けさに包まれた時間は、旅に一層の彩りを添えてくれた。

「大地と海からの贈り物」

夕食はホテル内のレストランでいただいた。コース料理が用意されており、「大地と海からの贈りもの」をテーマにしたメニューが並ぶ。一品一品が芸術のように美しかった。まず最初に運ばれてきたのは「本日のアミューズ」。この日は、旬の魚を使ったカルパッチョだった。口に含むと、素材の持つ繊細な味わいが広がる。続いて供されたのは、ホテル特製のコンソメスープ。澄んだスープの中に凝縮された旨味があり、じっくりと味わいながら飲んだ。

メインディッシュは、黒毛和牛のグリル。絶妙な焼き加減で、ナイフを入れると中から肉汁が溢れる。口に入れた瞬間、柔らかさと旨味が広がり、添えられた赤ワインソースがさらに味を引き立てていた。料理を引き立てる器にもこだわりが感じられ、和と洋が融合したデザインの陶器がテーブルを華やかに彩っていた。デザートは、自家製のチョコレートムース。濃厚でありながら、口どけが軽く、最後まで楽しめる味わいだった。

食事の後は、大浴場へ向かった。ゆったりとした作りになっており、湯に浸かりながら熱海の大パノラマを存分に楽しむことができる。ナチュラルな熱海の湯が体を包み込み、じんわりと温まっていく感覚が心地よい。夜の静寂の中、湯けむり越しに広がる夜景を眺めながら、日々の疲れが溶けていくようだった。至福のひと時を過ごし、心身ともに癒やされる贅沢な時間だった。

「解放的な景色とともに」

 部屋へ戻ると、ホテル独自のスリープ・ウェルネス・プログラム「Tranquillo(トランクィッロ)」を体験することにした。これは、精油と安眠のエネルギーを持つ天然石「セレスタイト(天青石)」を活用したリラクゼーションプログラムだ。セレスタイトの石言葉は「休息・浄化・心の解放」。ベッドサイドに置かれた透明感のあるブルーの結晶が、熱海の穏やかな海を彷彿とさせ、心を静かに落ち着かせてくれる。開放的な景色、スイスのブランド「farfalla」の香り、鳥のさえずりのBGM、視覚、嗅覚、聴覚が癒され、筋肉の深層へアプローチする施術を受けながら、自律神経が整えられ、心身の緊張が解けていくのを感じた。少々値は張るが、まるで波に揺られるような心地よさの中、過去に感じたことのない感覚で深い眠りへと誘われていった。

「夜明けのチェックアウト」

翌朝、朝食をいただくためにレストランへ向かう。ブレックファストにもこだわっており、お洒落な洋食メニューが用意されていた。私はボイルドエッグを選んだ。シンプルながらも絶妙な火加減で仕上げられた卵は、黄身がとろりと流れ出し、ほどよい塩味が味を引き立てる。サイドディッシュには伊豆ジビエソーセージを選んだ。地元の素材を活かしたジビエは、噛むごとに旨味が広がり、程よいスパイスがアクセントになっていた。食後に淹れたてのコーヒーを飲みながら、朝の清々しい空気を感じる時間は、何よりの贅沢だった。

チェックアウトの時間が近づくと、名残惜しい気持ちが湧いてきた。窓の外には、ゆっくりと夜が明ける景色が広がっていた。朝霧のヴェールをまとった海が、少しずつ光を受けて輝きを増していく。その静かな変化を眺めながら、ここで過ごした時間の余韻に浸る。夜明けのチェックアウト。この瞬間の美しさを心に刻み、再びこの場所を訪れたいと思った。

ホテルグランバッハ熱海クレッシェンドは、一人旅でも心からリラックスできる贅沢な時間を提供してくれる場所だった。静かに過ごしたい人には、ぜひおススメしたい宿のひとつだ。