「どこか懐かしい仙台へ」
仙台に一人旅に行くと決めた。日々の喧騒から少し離れ、自分だけの時間を味わいたかった。どこか懐かしく、それでいて新しい景色を求めて、私は旅支度を整えた。
仙台の奥座敷、秋保温泉。その名を聞くだけで、心がじんわりと温まる。私が今回足を運んだのは、名湯の中でも名高い「ホテル瑞鳳」。まるで異世界へ足を踏み入れたかのような、圧倒的な非日常がそこには広がっていた。
エントランスをくぐった瞬間、目に飛び込んできたのは壮大な吹き抜けのロビー。シャンデリアの光がゆらめき、静謐な空気が支配する。私の足元には、まるで湖のように煌めく水盤。ここが現実世界であることを、一瞬忘れそうになる。
チェックインを済ませ、部屋に案内される。襖を開けた途端、眼下には秋保の雄大な自然が広がっていた。紅葉が織りなす錦絵のような景色。思わず息をのむ。窓を開けると、涼やかな風が頬を撫で、遠くから川のせせらぎが聞こえてくる。この瞬間、旅の疲れがすっと消え去った。
「宮城の名湯」
瑞鳳といえば圧巻の大浴場だ。ここは、日本三御湯に数えられる名湯。その格式と歴史を誇る湯に、私は心を奪われた。いざ暖簾をくぐると、そこには幻想的な湯の楽園が広がっていた。広大な露天風呂、湯気の向こうに揺れる灯籠の明かり。さらに、四季折々の風情を映し出す庭園が目の前に広がる。春には桜が舞い、夏は緑が輝き、秋は紅葉が彩り、冬には雪景色が幻想的な世界を作り出す。
さらに、この美しい日本庭園内には、潮滝の湯・大和、秋保の湯、磊々の湯などの6種の露天風呂が点在し、湯めぐりを楽しむことができる。異なる泉質や温度の湯に浸かるたびに、新たな癒しが広がる。限りない開放感に包まれながら、心も身体もじっくりとリフレッシュされていく。また、深さ130cmの立ち湯や打たせ湯もあり、湯の力を存分に味わうことができる。
星が瞬く夜空を仰ぎながら、しっとりと肌に馴染む名湯に身を沈める。湯の温もりが骨の髄まで染み渡り、時間が溶けるような感覚に陥る。ああ、極楽とはこういうことを言うのか。心の底から、じんわりと温泉の恵みを感じる。
「本場の牛タンに心打たれる」
湯上がりには、楽しみにしていた夕食の時間。瑞鳳自慢のビュッフェレストランは、ただの食事ではない。そこはまるで食の楽園。ずらりと並ぶ豪華な料理たち。ジューシーで身がギッシリ詰まった「ずわい蟹」、炭火で焼き上げる仙台名物「牛タン」や新鮮な「魚介類」、目の前で揚げるサクサクの「天婦羅」、職人がその場で握る「お寿司」など、和洋中それぞれの専門シェフたちが、できたての料理を次々と提供してくれる。
特に、仙台名物の牛タンは、まさに芸術の域。上質なタンが炭火の上でじっくり焼かれ、香ばしい匂いが漂う。箸で持ち上げると、肉汁がじんわりと滲み出し、噛めばその弾力と旨みが口いっぱいに広がる。程よい塩加減が肉の甘みを引き立て、一口ごとに幸福感が押し寄せる。これぞ、本場仙台の味。何度でも食べたくなる魅力に、私はすっかり虜になってしまった。
デザートコーナーには、色とりどりのプチケーキやフルーツ、そして流れるチョコレートが目を引くチョコレートファウンテンが並ぶ。JAZZが静かに流れる店内で、優雅なディナータイムを満喫する。口福とは、このひとときのためにある言葉なのだろう。
「湯上りの至高の一杯」
食後、ふたたび温泉に浸かる。夜の帳が降りた露天風呂は、昼間とはまた違う表情を見せる。湯気の向こうにほのかに揺れる篝火、しんと静まり返る夜の空気。熱い湯がじんわりと身体を包み込み、まるで時間が止まったかのような感覚に陥る。
たっぷりと湯浴みを堪能した後、向かったのはBAR「篝火」。柔らかな間接照明が灯る大人の隠れ家。カウンターに腰を下ろし、酒どころ宮城の地酒を一献。ひんやりとしたグラスが手に馴染み、一口含めば、まろやかな旨みが舌の上を滑る。バーテンダーが作るオリジナルカクテルも気になるが、あえて今回は日本酒を選択。今日はこの静寂と共に、日本酒の余韻に浸りたい。
温泉でほてった身体を、心地よい酔いが優しく包む。JAZZの旋律が静かに流れ、贅沢な時間がゆっくりと過ぎていく。この瞬間がまさに至福のひとときなのだろう。
気持ちよくお酒も入ったからそろそろ部屋に戻り、眠りにつこうか――そう思った瞬間、ふと目に入ったのは全身もみほぐし「ほぐし屋仙台」ルーム出張可の案内。温泉と酒でほどよく緩んだ身体に、もうひと押しの癒しを。値段を見ると、思いのほか手頃だ。これはもう、呼ぶしかない。
しばらくして、部屋に現れたのは、熟練の技を持つセラピスト。ベッドに横たわると、じっくりと指圧が入り、筋肉の奥深くまでじんわりとほぐれていく。肩の力が抜け、気づけば意識が遠のくほどの心地よさ。まるで全身が溶けていくようだ。夢と現実の狭間で、私はただ、この瞬間の幸福を噛みしめた。
「夜明けのチェックアウト」
ホテル瑞鳳で過ごした一夜は、まるで夢のようだった。五感すべてが満たされ、心がほどけていく。仙台・秋保温泉の温もりに包まれながら、私は確信した。また必ず、この場所に帰ってくると。
少し寒い午前の風に煽られながら一夜の出来事を一つ一つ振り返りながら帰路につく。素敵な旅路に感謝する。死ぬ前にここの温泉に来れてよかった。